国はなぜ電動キックボードを普及させたい?本当の理由と高齢化社会への狙い

高齢者が3輪タイプの特定原付に乗っている

近年、街中で電動キックボード(特定小型原動機付自転車、以下「特定原付」)を見かける機会が急速に増えました。シェアサービスも拡大し、手軽な移動手段として注目されていますが、「なぜ国や自治体はこんなに急いで特定原付を普及させたいのだろう?」と、少し不思議に思っている方も多いのではないでしょうか。

私自身、特定原付の法改正の動向を追い、数多くの機種をリサーチする中で、その背景にある大きな社会の変化と政府の狙いが見えてきました。単なるブームではなく、交通渋滞の緩和、脱炭素社会の実現、そして特に深刻化する高齢化社会への対策という、明確な国家的意図があるのです。

この記事では、国が特定原付を普及させたい理由を、規制緩和の背景から社会的メリット・デメリット、そして私たちの生活にどう影響するのかまで、徹底的に深掘りして解説します。

この記事を読み終える頃には、特定原付を取り巻く状況の全体像を理解し、この新しいモビリティが持つ真の可能性と社会的な役割について深く納得できるようになっているはずです。

この記事の要点まとめ

  • 国が特定原付を推進する背景には、高齢化社会への対策を含めた6つの国家的理由がある。
  • 特に、免許返納後の高齢者の「移動手段の確保」は、国や自治体、業界団体が積極的に推進する重要な政策課題の一つである。
  • 普及にはメリットだけでなく、事故のリスクやルール違反といったデメリットや社会問題も存在する。
  • 特定原付は、都市の交通効率改善と人々の生活の質(QOL)向上に貢献する未来のインフラとなり得る。

国はなぜ電動キックボード(特定原付)を普及させたい?6つの国家的理由

国や自治体が特定原付の普及を後押しするには、現代社会が抱えるいくつかの大きな課題が関係しています。ここでは、その主な6つの理由を掘り下げていきましょう。

理由1:高齢化社会への対策(免許返納後の移動手段の確保)

特定原付の普及を推進する最大の要因の一つが、深刻化する高齢化社会への対応です。高齢ドライバーによる交通事故の増加に伴い、運転免許の自主返納が進む中、「移動手段の確保」は政府にとって喫緊の社会課題となっています。警察庁や国土交通省の政策研究報告等でも、高齢者向けの“新しい移動サービス”や“マイカー以外の柔軟なモビリティ”の必要性がたびたび強調されています。

特定原付は、16歳以上であれば免許不要で運転できる上、操作性が比較的容易であることから、シニアカーや電動車いすに続く「自己移動手段」としての可能性が高く評価されています。国は、特定原付を「免許返納後の移動手段」として明確な単独政策として打ち出しているわけではありませんが、官公庁や自治体、各業界団体・メーカーは、このモビリティを高齢者の移動手段として積極的に取り上げ、推進する動きが強く見られます。

特に、最高速度6km/h以下のシニアカーと比べ、特定原付(最高速度20km/h、歩道モード6km/h以下)はより広い範囲の日常圏での利用が見込まれます。これにより、高齢者の「買い物弱者対策」や「引きこもり防止」に貢献し、健康寿命の延伸や地域社会の維持に繋がる重要な戦略として期待されているのです。メーカー側も、高齢者がより抵抗なく乗れる四輪型や三輪型の特定原付の開発に注力しており、今後の自治体による具体的な導入・支援施策の拡大が見込まれます。

理由2:交通渋滞の緩和と「ラストワンマイル問題」の解決

都市部における交通渋滞は、経済的損失や時間的損失を生む深刻な問題です。自動車一台が占有するスペースに、何台もの特定原付が走行できることを考えれば、その効果は明らかです。特に、通勤ラッシュ時などの短い距離の移動が自動車から特定原付にシフトするだけで、渋滞緩和に繋がる可能性があります。

さらに重要なのが「ラストワンマイル問題」の解決です。これは、駅やバス停から自宅、あるいは目的地までの「あと少し」の距離の移動が不便であるという問題。特定原付は、このラストワンマイルを埋める完璧なピースとなり得ます。公共交通機関を降りた後、手軽に最終目的地まで移動できるため、車に依存しない生活スタイルを促進し、都市全体の交通効率を向上させることが期待されています。

理由3:環境負荷の低減(脱炭素社会の実現)

ご存知の通り、世界は脱炭素社会の実現に向けて大きく舵を切っています。特定原付は、走行中にCO2を排出しない電気エネルギーで動くため、非常にクリーンな移動手段です。ガソリン車での短距離移動が特定原付に置き換わることで、都市部の温室効果ガス排出量を削減し、大気汚染の改善にも貢献します。

一台一台のインパクトは小さくとも、普及が進めばその効果は無視できません。政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」という大きな目標達成のために、個人の移動手段レベルでの変革を促す、という狙いがあるのです。

理由4:新たな産業の創出と経済効果

新しいモビリティの普及は、新しい市場を生み出します。特定原付の普及は、車両の製造・販売だけでなく、シェアリングサービス、バッテリー交換ステーション、修理・メンテナンス、関連アクセサリーの開発など、非常に裾野の広い新産業を創出します。これにより、新たな雇用が生まれ、経済全体の活性化に繋がることが期待されています。

特に、日本は自動車産業で世界をリードしてきた歴史があります。その技術やノウハウを活かし、マイクロモビリティの分野でも世界的な競争力を持つことを目指している側面もあるでしょう。

理由5:インバウンド需要と観光活用

海外の主要都市では、すでに電動キックボードが観光の足として定着しています。観光客が手軽に、かつ自由に街を散策できるツールとして非常に人気です。日本でも、特に観光地において特定原付のシェアサービスを充実させることで、外国人観光客の満足度を高め、新たな観光体験を提供できます。

バスやタクシーでは見過ごしてしまうような細い路地や、少し離れた名所へも気軽にアクセスできるため、よりディープな日本の魅力を発見してもらうきっかけになります。これは、観光消費の拡大や地方創生にも繋がる重要な戦略の一つです。

理由6:多様な移動手段の提供による利便性向上

徒歩、自転車、公共交通、自動車。これまでの移動手段に「特定原付」という新しい選択肢が加わること自体の価値も大きいと考えられています。例えば、「歩くには少し遠いが、電車やバスに乗るほどでもない」という絶妙な距離の移動に、特定原付は最適です。

個々人のニーズやその日の状況に合わせて、最適な移動手段をパズルのように組み合わせられる社会は、生活の質(QOL)を大きく向上させます。移動の選択肢が増えることは、それだけで都市の利便性を高め、人々の活動をより活発にすることに繋がるのです。

普及の裏にあるデメリットと社会問題|本当に安全なのか?

もちろん、特定原付の普及は良いことばかりではありません。むしろ、手軽さゆえに看過できないデメリットや社会問題も浮き彫りになっています。ここでは、私たちが目を向けるべき3つの課題を解説します。

課題1:事故のリスクと危険性

最も懸念されるのが交通事故です。車輪が小さく、重心も高めな特定原付は、自転車に比べて路面の凹凸や段差の影響を受けやすく、転倒のリスクは低くありません。特に、運転に不慣れなうちは、急なハンドル操作やブレーキでバランスを崩しがちです。また、車体が小さく静かなため、自動車や歩行者から認識されにくいという危険性もはらんでいます。

警察庁が発表した資料によると、法改正後の2023年7月から12月までの半年間で、特定小型原動機付自転車が関連する交通事故は85件発生し、86人が負傷、この期間の死者は0人でした。事故件数は少なくありませんが、この期間に死者が出ていないという事実は重要です。しかし、記事公開時点(現在)では、特定小型原動機付自転車の運転者が死亡する交通事故がすでに発生しており、安全な乗り物とは決して言えない現状を、私たちは直視する必要があります。

課題2:ルール違反の横行(飲酒運転、信号無視、歩道走行など)

「免許不要」という手軽さが、交通ルールへの意識の低さに繋がっているケースが後を絶ちません。飲酒運転、信号無視、二人乗り、スマホのながら運転など、重大事故に直結する悪質な違反が頻繁に検挙されています。特に、本来は車道通行が原則であるにもかかわらず、危険な歩道走行を繰り返す利用者も多く、歩行者にとって大きな脅威となっています。

これらの違反は、単なるマナー違反ではなく、明確な法律違反であり、厳しい罰則の対象となります。しかし、その事実がまだ十分に浸透していないのが実情です。利用者一人ひとりの意識改革と、継続的な啓発活動、そして厳格な取り締まりが不可欠です。

課題3:放置車両問題と都市景観

特にシェアサービスで顕著なのが、歩道や駅前、建物の入り口など、通行の妨げになる場所への放置問題です。これにより、視覚障害者や車椅子利用者、ベビーカーを押す人々にとって、安全な通行が脅かされる事態となっています。また、無秩序に置かれた車両は街の景観を損なう原因にもなります。

この問題に対し、各自治体では専用の駐輪ポートの設置を進めたり、放置車両の撤去に関する条例を整備したりといった対策を進めていますが、利用者のモラル向上が根本的な解決には欠かせません。

特定原付に関するよくある質問(FAQ)

Q. 本当に免許なしで乗れるの?

A. はい、16歳以上であれば運転免許は不要です。ただし、それは「特定小型原動機付自転車」の基準を満たしたモデルに限ります。購入前に、性能等確認制度の認定シールが貼られているか必ず確認しましょう。詳しくは、こちらの記事で解説しています。

Q. ヘルメットは被らなくてもいい?

A. 法律上は「努力義務」とされており、着用しなくても罰則はありません。しかし、先述の通り交通事故のリスクは決して低くありません。万が一の際に頭部を守るため、安全のためにもヘルメットの着用を強く推奨します。

Q. 税金や保険はどれくらいかかる?

A. 特定原付には、年に一度、軽自動車税(2,000円)がかかります。また、法律で加入が義務付けられている「自賠責保険」への加入が必須です。保険料は契約期間によって異なりますが、2024年4月1日以降に保険始期を迎える特定小型原動機付自転車の1年契約では6,650円です(沖縄県・離島等を除く)。最新の保険料については、必ず損害保険料率算出機構や損害保険会社の公式情報をご確認ください。

Q. ドンキホーテやヤマダ電機でも買える?

A. はい、一部の店舗やオンラインストアで取り扱いがあります。ただし、品揃えは専門店に比べて限られる場合があります。各店舗の取扱状況については、以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ:未来の移動手段を賢く、安全に活用しよう

この記事では、「国はなぜ電動キックボード(特定原付)を普及させたいのか?」という疑問にお答えしてきました。その背景には、交通渋滞、環境問題、経済効果、そして特に高齢化社会における移動手段の確保といった、国が抱える大きな課題を解決したいという明確な意図があることをご理解いただけたかと思います。

一方で、事故のリスクやルール違反といった深刻な問題も存在します。特定原付は、私たちの移動をより自由に、そして便利にしてくれる大きな可能性を秘めた乗り物です。しかし、それは私たちがその利便性と危険性の両方を正しく理解し、安全に、そして責任を持って利用することが大前提です。

特定原付の普及は、私たち一人ひとりの日々の移動を変えるだけでなく、社会全体の効率化、環境負荷の低減、そして高齢者の生活の質の向上にも繋がる、未来に向けた重要な取り組みです。正しい知識とルールを守ることで、特定原付はあなたの毎日を、そして社会をより良い方向へ変えるきっかけになるはずです。

特定小型原動機付自転車についての外部リンク

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